〔演奏会レポート〕11/18チャルメラの仲間たち@文京シビック

日本の響き、世界の調べ
~第3回チャルメラの仲間たちーダブルリードの魅力~
2018年11月18日(日)15時開演
@文京シビックホール小ホール

第1回「日本と韓国」では尺八と短簫、テグム、
第2回「琵琶とシルクロード」ではリュート、ウード、中国琵琶、平家琵琶、薩摩琵琶を特集しているコンサートシリーズ。
第3回は是非ダブルリードでということで企画段階から関わらせていただきましたが、楽器の説明を聞きながら音を確かめ、風土や時代を感じながら音楽を楽しむという、とても贅沢で目と耳が喜ぶ演奏会でした!

わたしは最初のチャルメラと篳篥を演奏いたしました。

〇チャルメラ
タイトルが「チャルメラの仲間たち」なので、まずは夜泣きそばのチャルメラ♬をお聞きいただきました。
ほんの数秒、例の♪ソラシーラソ ソラシラソラー を吹くだけなのですが、わたしはチャルメラの楽器を持っていません。
チャルメラってどこにあるの?誰か吹いている人いるの?とわからないことだらけ。

歌舞伎「国姓爺合戦」の中で、中国情緒がある場面で吹く、と辞書にあるのですが、近頃はあまり歌舞伎でもチャルメラを吹くことはないとか。浅草にある岡田屋さんを訪ねてみると、「チャルメラ?その言葉何年振りに聞くかしら~」といいながらいろいろ探し回ってくださり、販売用はないけれどレンタル用ならある、と、赤と青のチャルメラを持ってきてくださいました。
リードは細めのプラスティックストローを潰したのがついていましたが、音は出たりでなかったり。

結局、個人蔵の楽器をお借りして、リードを自分で作って付け替え、何とか本番でメロディーを吹けた時には、ホッとしました。
昔は麦わらの茎を潰してリードにして付けていたようです。いつか麦わらの茎でリードを作ってみたいものです。

〇篳篥 演奏:中村仁美

曲は、蘇莫者音取、序、破。役行者が笛を吹くと山神が出てきた舞ったというような伝説もありますが、一説によると蘇莫遮とはトルファン(高昌国)の女子の帽子の名だとのことで、シルクロードを通って日本に伝えられた曲かもしれません。12123の夜多羅拍子を西域のリズムのように感じつつソロで吹かせていただきました。

 

 

〇メイ、ズルナ 演奏:ウナル・ユリュク
ダブルリード楽器が西アジアあたりから東西に広がったと考えると、トルコのズルナとメイあたりがその源流かなあと思われます。

〔ズルナ系(ちっちゃいリード+内径が末広がりの管)〕
チャルメラ(日本)、太平簫(韓国)、スオナ(中国)、シャルマイ→オーボエ・クルムホルン(ヨーロッパ)など

*写真は左から、ズルナ(トルコ)、スオナ(中国)、スオナ(中国)、ボン・バウ(ベトナム)、ボンバード(英仏)

 

〔メイ系(大きなリード+円筒管)〕
篳篥(日本)、ピリ(韓国)、管子・喉管(中国)など

*写真は、ドゥドゥク(アルメニア)、メイ(トルコ)、メイ(トルコ)、大篳篥、篳篥

 

 

 

敵を威嚇できるくらいやかましいズルナが、西のヨーロッパに行くと室内で絃楽器と合奏できるくらい静かなオーボエになってしまう一方、深く静かな音色のメイが、東の日本に行くと音量大の篳篥になってしまう不思議。
結局は欲しい音を出すために、材料や形や吹き方を工夫してしまうのが人間なんだなあと実感します。

ユリュクさんは、メイでタクシーム(即興演奏)をヒジャーズとウッシャークの二つの旋法で静かに演奏。
ズルナでは大きなカバ・ズルナ(管長50㎝余)と小さめで舞踊に使うハライ・ズルナの二種を演奏されました。
小さいほうのズルナは鼓膜がびりびりしそうな鋭い音で、早い複雑なリズムの曲を賑やかに聞かせましたが、大きいカバ・ズルナの方は案外穏やかな音。ズルナの音は心に響くという奏者の言葉がうなずけました。

楽屋では、予めお願いしておいたメイの新しいリードをいただき、ビブラートのかけ方を教わりました。上下の唇を歯にかぶせるオーボエ風の口で、「モンモンモンモン・・・」と顎を動かしてビブラートをかける。音程は揺らさないビブラートだとのこと。
25年前にイスタンブールで、Suat Iskul先生の家に毎日通って1週間メイを習ったのですが、篳篥吹きにはビブラート奏法が何より難しい。
毎日1時間練習しなさい。とのこと。

〇バグパイプ、クルムホルン他 演奏:近藤治夫、サリー・ラン、立岩潤三
バグパイプの近藤治夫さんとは何度か共演したことがあり、間近に楽器を見ていましたが、メロディーを出すチャンター管、ドローン管のリードのリードの形に、シングルリード、ダブルリード(ちっちゃなリード+内径末広がり)、ダブルリード(大きなリード+円筒形)といろんな種類があることはよく知りませんでした。
やはり、ちっちゃいリードのほうが大きい音が出るようです。

クルムホルンとかラウシュプファイフェとか、リードにキャップをして誰でも音が出せるようにした楽器を見ると、中世ヨーロッパの人たちは皆、素人でも楽器を演奏したかったのかな、と思います。唇がリードに触れていないから、唇でビブラートをかけることも塩梅をかけることもできないけれど、音が出やすいから大衆的な楽器になる。
何かを得ることは何かを失うことだというよい例です。

なかなか音の出ない横笛にキャップをつけて、誰でも音の出るリコーダーにしてしまったのも同じ改造ですけれど、リコーダーは今も広く使われているのに、クルムホルンは広まらなかった。リードはやっぱり唇で調整したほうが吹きやすい、ということでしょうか。

〇オーボエ(バロック~現代)演奏:三宮正満、荒井豪
三宮さんと荒井さんが、お話を交えながらルネサンス、バロック、古典派、ロマン派、現代という5つの時代の音楽を、10本の異なるオーボエを用いてデュオ演奏しながらご紹介くださったのは、とても面白いものでした。
ズルナの面影のある野外向き音量だった中世のショームが、内径を細く指孔を小さく工夫されることで、バロック、古典派の頃には本当に静かな楽器に変わってしまったことに驚きます。
それが現代になると、運指を簡単にしてかつ半音階がスムーズに出るようにと、金属キーがたくさんついた重い楽器となります。今度は大ホールでよく響くことが求められているとか。
音色、音量、音域、メカニックの変化をこんなに実感できたのは初めてでした。

〇アンコール
ジェッディンデデン(トルコ軍楽隊の曲)を出演者全員で演奏しました。
似たもの同士、なんの違和感もない楽しい合奏で、にぎやかに終演。

どちらかと言えばマイナーなダブルリード楽器ですが、なかなか奥が深いことを改めて認識した演奏会でした。

聴きどころ指南>のサイトにも楽器写真などがありますので、ご参照ください。
オーボエの三宮正満さん、バグパイプ・クルムホルンの近藤治夫さんも寄稿されています。

https://www.b-academy.jp/hall/special-mail-magazine/premium/kikidokoro/010/index.html?fbclid=IwAR1AmcwSIv4i_4MuPhzOX7G6Mf4AmQnak1gEwhIDsnXtoQoMKKwS2_cMWPE

 

essay, link