鵜殿ヨシ原の今 2018晩秋
ヨシが黄金色に輝く季節、篳篥の盧舌に使用されるヨシが生えている淀川の河川敷に近い、上牧小学校を訪ねて、長谷川直子さんと共に雅楽体験授業をさせていただきました。
この地域の方々がヨシ焼きなどの大変な作業を行ってヨシを守ってくださるお陰で、私達は盧舌を作り篳篥を吹くことができるのですが、案外地元の方は、そうしたことを知らなかったり、雅楽を聞いたことがなかったりするとのことです。
今回、上牧で長年ヨシ刈をなさっている木村さんが学校とつないでくださり、子どもたちにヨシ原の素晴らしさを伝えながら雅楽や篳篥の魅力を伝えられる機会をいただけたのは、本当に嬉しいことでした。
今年の6年生は、4年生のときに雅楽の演奏を聞いているだけでなく、ヨシズ作りの体験もしたとのこと。授業の最初から楽器の名前もヨシのことも知っていて、さすがです。
まずは篳篥の唱歌を歌ってから、全員に篳篥を渡して音を出してみました。
なかなか音が出なかったりもするのですが、蘆舌のくわえ方を変えたり息を強く入れたりして音が出たとき、とってもいい表情をしてくれます。
龍笛にもトライしましたが、なかなか音は鳴りません。
感想を聞くと、「思ったより難しかった。」「聞いたことはあったけれど、初めて音を出してみることができて良かった」とのこと。自分で吹いた後はさらに興味を持って演奏を聴いてくれたようです。
学校はヨシ原のすぐそばにありますが、高い堤防に登らなければ見ることができません、ヨシを使う生活やヨシズ作りが昔の話となってしまった今、放っておけば子どもたちはヨシの存在に気付く機会すらなくなってしまいます。
小学校では、子どもたちが地域の自然環境に関心が持てるようにと、地元のヨシを取り入れた授業として、3年前から4年生にはヨシズ作りの授業を組み込むなどの取り組みをしているそうです。
今回の雅楽体験授業も、校長先生や6年生の担任の先生がとても熱心に参加してくださり、先生方の関心が子どもたちに伝わって、とても良い授業になったと感じました。
子どもたちが書いてくれた感想を読ませていただきましたが、
「篳篥はとても、重くズッシリした音でした。笙はさわやかなサッーとしたとう明感のある音でした。2つが混ざったときはとても美しかったです」というのもあって、上手く表現するものだなあと感心しました。
「鳴らすのはとても難しかった。少しくやしかったです」というのも実感がこもっていて良くわかります。
授業が終わったあと、ヨシ原を歩いてみました。茶色の穂が揺れる美しい風景ではあるのですが、以前よりヨシが減っていて、妙に見通しが良くなっていることに気づきます。
聞けば、冬にヨシ焼きができたため、シミのないきれいなヨシが育ったものの、猛威を奮った台風の強風で葉が飛ばされたり、折れたりしまったりしたといいます。上牧小学校の体育館の屋根も一部飛ばされてしまって修復工事中でしたから、本当に猛烈な風だったようです。
さらに、夏の猛暑。イネ科の植物だけに猛暑には弱いそうです。
そして何より、つる草の害が大きいと感じました。つる草が以前より広くはびこり、折角育ったヨシが絡め取られて倒されているさまを見ると、唖然とします。明らかに毎年つる草の領域が広がっているので、なんとか早く手を打たなければ、ヨシがつる草に征服されてしまうに違いないと、暗澹たる思いがいたしました。
草むしりをすればよいと言っても、春から夏まで継続的に広い範囲を手で草むしりするとなると、大変な労力です。知恵を出し合って何らかの対策を立てて、実行しなければ手遅れになるのではないか、と危機感を持ちました。
一方では、高速道路の工事は着々と進み、整地された土地の向こうに橋脚の土台ができ始めていました。
今日出会った子どもたちが大人になった時にも、ヨシ原が広がるこの風景が残っていてほしい、と強く感じた一日でした。
*ヨシ原の現状については、来年1月発行の「雅楽だより」第56号(雅楽協議会発行)でも詳しく取り上げられるそうです。http://gagaku-kyougikai.com/dayori/index.html