篳篥の仲間たちのリード 勢ぞろい ~ヨシの種類が違う?!~

我が家にある篳篥の仲間たちの「リード」を並べてみました。
どれがどこの何という楽器のリードだか、わかりますか?

下段左端にあるのは韓国の「ピリ」。
左から2番目が我が「篳篥」。
そのすぐ右にあるのは中国の南方の「喉管」。
そして下段右端に二つ並べたのはどちらも中国北方の「管子」
 
東アジアの篳篥族のリードは、長さはまちまちながらも、幅はまあ篳篥と同じくらい。
ところが・・・ 上段に移るとサイズが違う。大きい!
 
上段左端はアルメニアの「ドゥドゥク」。
その右の3本はどれもトルコの「メイ」です。
(イランの「バーラーバーン」は、持っておらず残念)
 
並べると比べたくなります。「セメ」=吹き口の空き具合を調節するものの材質(籐・木・針金)と形や位置。管に接触する部分に糸や紙を巻くかどうか。「帽子」=吹いていない時にかぶせるものの有無。・・・
 
もちろん、リードを付ける本体部分の材質についても、アンズの木を使うドゥドゥクやメイ、黒檀・紫檀といった硬い木を使う管子、竹を使うピリや篳篥などいろいろです。
 
でも、今回はリードの材質に注目したいのです。

篳篥のリード(蘆舌)はヨシでつくります。他の国のリードも・・・大きさ、厚みの違い、表面がつるっとしてたり、ちょっとざらざら荒い感じだったり、と色々ではありますが、やっぱりヨシでしょう?
トルコやアルメニアには太いヨシが生えているから、あんなに大きなリードが作れるんでしょうね。ヨシといっても種類がさまざまありそうです。

そういえば、友人が鵜殿ヨシ原保全運動の紹介をコラムに載せてくれた際に、西洋のリードについてこんなことを書いていました。

「ただ、オーボエやファゴット、クラリネット用リードのアシ=ヨシ材(Arundo donaxは、篳篥用リードのヨシ=アシPhragmites communis または Phragmites australisと異なります。日本語で暖竹(ダンチク)と呼ばれ、径が2〜4cmにも達するイネ科多年草。関東以西から中国、インドなどに広く分布していますが、地中海沿岸に自生しているものがリードとして使われるのだそうです。」http://seiko-phil.org/tag/%E7%AF%B3%E7%AF%A5/

これを読んで、昔、イタリアだったかフランスだったかのリード材料になるヨシをいただいて、篳篥の葦舌を作ろうとしたことを思い出しました。肉厚すぎて、外から削ると内側の柔らかい所しかのこらず、全然質が違って使い物にならなかったのです。

南欧のヨシでは、良い篳篥のリードは作れません。でも、オーボエのリードは、内側から削って行って外側に近い所を残し、それを2枚重ねてダブルリードにするのですから、この材でも大丈夫なんだろうなあ、と納得したものです。

それに対して、アジアのダブルリード楽器のリードは、内側から削ることをせず、円筒のままのヨシを潰して外側から削ります。だから、ドゥドゥクのリードの材料となるヨシは、オーボエリードにするヨシとは別な種類だろうと漠然と思っていたのです。

そこに疑問を抱いたきっかけは、『鵜殿通信四月号』で小山弘道先生がバグパイプのリードはアルンド=ダンチクだ!と書いていらっしゃるのを読んだことでした。なるほど古楽器もArundo donaxのリードなんだ・・・そういえばドゥドゥクやメイのリードは、何でできているのだろう?

気になってインターネットで調べてみると・・・

ドゥドゥクのリード材はArundo donax(ダンチク)だと書いたものがあります。そして管子のリードもまたArundoだと。 ということは、リード材で分類するなら、ドゥドゥク・メイ・管子とクラリネットやオーボエは仲間で、篳篥は仲間外れいうことになるのでしょうか?!

 
ダンチクは日本でも高さが2~5m、茎の太さ(経)も2~4cmとなるヨシより大型な植物。
潰した時に巾が4~5cmもある、ばかでかい(と篳篥吹きには思える)メイのリードもダンチクで作るなら納得できます。
 
そして、そういわれれば思い当たる節はあるのです。
トルコでメイを教えてくださった先生の吹く音色の柔らかさは、クラリネットの音色を思い起こさせるものでしたし、ドゥドゥクの音色もしかり。ヴィブラートを用いて柔らかく吹く奏法によるものと思っていましたが、むしろリードの材質が同じだから、リードの形が違っていてもメイ・ドゥドゥクとクラリネットは音色が似ている、ということではないでしょうか。
逆に言えば、篳篥とドゥドゥクであんなにリードの形が似ていても、音色が全然違うのは、リードの大きさのせいではなく、ドゥドゥクのリードがArundo donaxで、篳篥のリードがPhragmites australis  だから、と考えればよくわかります。
 

それに、メイや管子のリードの管に接する側の端は、ヨシの節のあたりを使っているように見えますが、その節の内径の形は見慣れたヨシの節とは違い、ダンチクの節っぽく見えます。

 
では、なぜ、篳篥のリードには Arundo donax が使われないのか?
小山先生が書いていらっしゃるように和歌山の海の方には沢山Arundo donax=ダンチクが生えているにも関わらず。 そして、中国の管子にはArundo donax が用いられているにも関わらず!!
 
篳篥が日本に伝わった時に、そのリードにArundo donax=ダンチクが使われていたなら、「鵜殿のヨシ」ではなく「和歌山のダンチク」が千年間使わることになったのかもしれません。そうならなかったのは、伝わった時からリードはダンチク製ではなかった、ということではないでしょうか・
 
可能性としては、篳篥属の楽器が伝播していく途中、Arundo donax=ダンチクが生えない地域があり、そこでは代用品としてPhragmites australis =ヨシをリード材として使うことになった。そして、そこから日本に伝わったので日本ではリード材にヨシを使うことになったのではないか。とも考えられます。
そこで、気になるのが韓国の「ピリ」のリードがなにでできているか、ですね。辞書には「海竹」で作るとあり、ずっと私は竹で作るんだ~、と思っていましたが、「暖竹(ダンチク)」が大型のヨシで海岸に生えているなら、「海竹」もこの仲間?
でも、見た目、固さ、吹き心地と音色からすると、ピリのリードはArundo=ダンチクではないように思われます。篳篥蘆舌のヨシに似ているけれども、さらに堅そうな・・なんとか調べたいところです。
北方の朝鮮半島ではダンチクは生えない、かもしれません。ピリと篳篥とは同じく竹を本体に使うわけですし・・・篳篥は朝鮮半島から伝わったということかしら?!・・・想像が膨らみます。
もちろん、千数百年前に朝鮮半島や中国で使われていた「篳篥」が、今と同じなのかどうか・・・調べたいことはたくさんありますが。
 
まだまだリードについて、そしてヨシとダンチクについて、謎?と興味は続くのですが。ひとまずこれまで。

                       (to be continued…)