春庭花のこと

かつて宮中では、元日の節会で、雅楽寮の楽人たちは、双調調子に続き春庭楽を参音声として演奏し、続いて舞楽を数番奏したと言います。
「春」という言葉を題名に含む雅楽の曲としては「喜春楽」「春鶯囀」もありますが、春の調である双調に属しているのは「春庭楽」だけ。「春庭楽」は新春にピッタリな選曲なのです。

今度の伶楽舎公演(2023年1月28日)では、舞楽「春庭花」を上演します。
この曲、管絃で奏するときは「春庭楽」ですが、舞楽で二帖を含めて奏する場合には「春庭花」と称します。二帖で4人の舞人が中央に寄ったり開いたりしながら舞台をゆっくり一周する動きが、まるで花が開いたり閉じたりしているように見える、というので「春庭花」と呼ぶようになったようで、この命名も素敵ですね。
このように題名を呼び分ける曲はこの曲くらいしかないのではないでしょうか。
四人の舞人の冠には挿頭花がつけられていて、可憐なお花がさらに春を感じさせてくれます。

もう一つ、「春庭花」でしか見られない特徴は、鞨鼓の奏法が途中で変わることです。
最初は大掲声という奏法で、左右の撥を使って「来」という細かいトレモロのような奏法などを奏しているのですが、二帖目になると左手のバチは床に立てて右手のみで壱鼓打で打つようになるのです。鞨鼓の奏法が途中で変わる曲というのもごく珍しいものです。
二帖目からは太鼓の桴数も増えてテンポも上がっているので、ゆったりした冒頭部分と比べると、いつの間にか随分変わって軽快になっていることに気づかれると思います。

双調という調は、五行で春に当てはめられた調だというだけでなく、音楽自体が明るくて春らしい雰囲気を感じます。笛篳篥の旋律に半音が余り含まれないからかもしれません。
舞楽「春庭花」で明るい春の始まりを寿ぎたいと思います。

essay