太食調の呂律

1月28日の伶楽舎紀尾井ホール公演で取り上げる「仙遊霞」は太食調の「呂」の曲です。
太食調の「呂」の曲はあまり取り上げる機会がないので、少し書いてみます。

そもそも唐楽の6つの調は「呂」と「律」に分かれていて太食調は「呂」の曲なのですけれど、太食調の箏調絃には「呂」と「律」の二種類があり、なぜかほとんどの曲は「律」で調絃されています。

「呂」の箏の構成音はE #F #G B #Cで、「律」はE #F A B #Cなので、#GかAかという違い。
よく「太食調音取」を弾き終わった箏奏者が柱を動かして調絃を変えているのは、「呂」から「律」に変えているのです。(せっかく呂の調の雰囲気に場を整えたのに、次は律にしてしまうというのは何だか変な感じでありますけれど)
太食調律の調絃は、平調と同じ(どちらも主音が洋楽のE=ミの音)なので、太食調を聴いているのか平調を聴いているのか、わかりにくいということになっています。

太食調の「呂」の曲は、「太食調音取」「朝小子」「打球楽」「仙遊霞」「蘇芳菲」「庶人三台」のみ。このうち「朝小子」「打球楽」を舞楽で奏す時には箏は入りません。
「仙遊霞」「蘇芳菲」「庶人三台」も奏される機会が多い曲とはいえませんので、今回の「仙遊霞」では是非「呂」の箏の調絃に注目していただきたいです。

「呂」の箏(四と九の絃)に現れる#Gの音は、実は篳篥や龍笛では現在では吹かない音で、曲中太鼓五、七、九からのフレーズで、箏や琵琶が#Gを弾いている時にはAの音を吹いています。
笙には#Gの音(美)があるのですが、なぜかこの箇所ではA(乞)を吹くので、絃楽器の#Gと管楽器のAが同時に奏されるのがなかなか斬新。
(雅楽ではFと#FやCと#Cが当たるのはよくあるので、奏者は馴れているんですが、#GとAの音の組み合わせに慣れていない!)

実はこのフレーズの最後の音になると、絃がG#、笛篳篥がF、笙が十(=Gだけど再低音は#F)となっていて、これまたまた面白い組み合わせ。
昔からこんな風に違う音が当たっていいたのか、管楽器は実は#Gで吹くこともあったのではないだろうか、と想像が膨らみます。

太食調の呂の曲、練習を重ねるうちに#G の入った箏調絃に快感を覚えるようになってきました😊
皆さんはどうお感じになるでしょうか。

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