三百坊にて 雅楽と愛でる十五夜
2022年9月10日(土)「雅楽と愛でる十五夜 ―三百坊の物語 名月―」ログハウス三百坊にて
中秋の名月に合わせたこの公演は、山形市の西蔵王にあるログハウス三百坊にて、第一部は屋内で夕日の入りを眺めながら、第二部は屋
外の特設舞台で名月を観ながら雅楽の響きをお楽しみいただこうという企画。
前半は青森ヒバの丸太を贅沢に使ったログハウスの木に響く音を楽しんでいただくうちに、夕焼けの空の色が少しずつ変わって入日となりました。
そして後半は雅楽三昧中村さんちの3人が演奏している後ろに、月が顔を出すはず。
心配した天気は上々で、うっすらと雲がかかるベストな空!演奏しながらもいつお月様が顔を出してくれるのかしらと、曲間ごとに後ろを振り向いてソワソワするような気持ちです。
と、ちょうどお茶タイムで地元西蔵王の和菓子屋さんが中秋の名月にあわせて特別にご用意くださった「白うさぎ」「満月」のお菓子を召し上がっていただいている間に、山の端が白く横一文字に輝き始めました。
月の出があんなに輝くものとは知りませんでした。心が震えました。
月の光を浴びながら、虫の声、小川のせせらぎの音、風を感じながら演奏し、舞を舞う。滅多にできない経験でした。
雅楽は本当は月や花、虫の声や水・風の音と
共に味わうものだと常に思いつつも、今はなかなかそのような機会を作ることはできません。
今回、ログハウス三百坊とおもてなし山形の皆様のおかげで、自然の恵みと土地の力を感じながら演奏させていただくことができたのは、本当に大きな喜びとなりました。
実はこのログハウス三百坊は、30年ほど前、まだ雅楽演奏活動を始めたばかりの頃、3度演奏させていただいた思い出の場所です。
1989年8月13-14日の「雲の峰 月山祭」(月山神社)という催しで、石川高さん、平井裕子さんと私が雅楽を演奏したことを聞いたログハウス三百坊の神保さんが、うちでも是非やってほしいと声をかけてくださり、
1990年7月7日に「星の祭り」、1991年10月20日に「月見と雅楽の夕べ」、1993年1月23日に「旧正月を祝って」と季節を変えて3回演奏会をしたのでした。
1回目には屋外にて舞楽「蘭陵王」を舞い、「流星たちの戯れ」という自作曲を演奏。2回目は「月のみや」という西行の歌に朗詠風の節をつけて歌い、「月に寄する恋」という自作曲や「秋風楽」の復曲を演奏。3回目は御神楽から「千歳」などを取りあげました。
そういえば、初めて装束をあつらえたのは1989年の「月山祭」のためでしたし、石川・平井・中村の3人で初めて本番を行ったのもこのイベントでした。これをきっかけにこの3人で演奏会を企画したりCDを出したりすることになるのですが、ログハウス三百坊での公演で私たちは鍛えられたような気がします。
伶楽舎が第一回自主演奏会を行ったのはこの後、1994年のことになります。
30年前、夏、秋、冬と3回行ったまま、なぜか三百坊公演は終わってしまいました。
そして今回は秋の月がテーマ。
いまだ春に公演をしていないのが心残り。
西行が薄紅の桜の歌を残したというこの地で、今度は桜の機会に演奏することができますように、と願わずにはいられません。