ピリのリードはどうやって作るの? ソウルで取材

9月末に韓国のソウルへ行ってきました。
ずっとピリのリードの材料と製法を知りたいと願っていたのですが、今回、季刊誌「雅楽だより」がピリについて取材旅行をするというので、同行させていただいた次第です。
韓国の雅楽を研究されている山本華子氏にお願いし、資料を事前に見せていただいたところでは、ピリのリードの材料は「海蔵竹」と呼ばれる竹だとのこと。
竹でリードが作れるだろうか?名前は竹といいつつ実は葦(ヨシ)の一種ではないの?
円筒形の竹の端をどうやって平らに潰しているのかしら? 篳篥の蘆舌(リード)のように金属のひしぎごてで先端を挟んで火の上で焙りながら平に潰すのか、あるいはアルメニアのドゥドゥクや中国の管子のようにお湯の中で温めながら、あるいは温めてから潰すのか?
削る時に使う道具はどんなもの?・・・沢山の疑問が湧き上がります。
 
リード製作者を訪問できると聞き、これで疑問が一挙解決!! と勇みこんでソウルに行ったのでした。
訪問したのは、韓国でピリのリードを作れる、数人しかいない職人さんの一人、姜民培氏。40代後半の男性で、はきはきと受け答えをしてくださいます。
詳しくは「雅楽だより」の2014年1月号に掲載されますので、ここであまりばらしてはいけないのですが…

海蔵竹はやっぱり細い竹でした。こんな硬いのをどうやってリードの形に潰すの?と言いたくなるような硬いものです。なんでも、同じ海蔵竹でピリの管の部分も作るとのこと。本体とリードが同じ材料なんて、びっくりです。
その硬い竹を加工しやすく柔らかくするためには、どうすると思いますか……? 次の作業場に案内されてみると、ガススコンロの上に大きなお鍋が置いてあります。そう、茹でるのです。
篳篥同様、節の下1.5cmあたりから8cmの長さの材を切り取ったら、それをまず数時間茹でて、乾かすのです。その後、上部3/4ほど表皮を剥ぎ取ってから潰すのですが、道具は使いません。少し熱い湯にくぐらせた後、指で(!)潰して先端を平にし、竹で挟んで固定し、篳篥で言う「セメ」の代わりに銅線を巻いて平らな形を固定し、そして……。

ここからの作業は、姜さんが、ここだけは絶対見せられないと強調するトップシークレット。アルメニアのドゥドゥクのリード製作でいえば、形作ったリードに最後に油を塗って火の上で焙る作業がありますが、ピリでもどうやら似たような作業があるらしく、そこが一番企業秘密にしたいようなのです……。
最終的には紙やすりで厚さを調整して出来上がりです。
詳しくは「雅楽だより」1月号を読んでくださいね。http://gagaku-kyougikai.com/dayori/index.html
写真入りで詳しく掲載されるはずです。
 
さて、今回の収穫といえば、同属楽器の中における、篳篥の特異性を再確認できたことです。
ガラケーといえば、世界標準を無視して独自の進化を遂げた日本の携帯電話=ガラパゴス携帯のことですが、篳篥もそんな感じかも。
本体の管自体、外側は桜の皮を細く糸のようにつないで竹の管に巻いて漆を塗り、内側にも漆を塗るという、細かい細工を施していて、ほとんど工芸品となっていて、篳篥はシンプルな世界標準からはずれた域に達しています。ピリの管はリードを差し込む頭部に少し紐を巻いているものの、あとは竹に穴をあけただけで何も塗っていませんし、ドゥドゥクだってあんずの木に穴をあけただけのシンプルなものです。
蘆舌(リード)は見た目それほど他と変わらないと思っていたのですが、製法に関しては篳篥だけ、お湯の中で温めて柔らかくするという行程がないとわかりました。
その代り、わざわざ篳篥蘆舌製作にしか使えない「ひしぎごて」なる工具を使い、焙りながら形をかえるのですから、いかに梅雨時の湿気の多い季節を選んで作業しても、脇が割れてしまうこともしばしば。
 
お湯で温めて潰していた作業が、なぜ日本では火で焙りながら潰すように変化したのか。材料に合わせたのか、気候に合わせたのか、火の上でひしぐことでしか得られないリードの形とそこから生まれる音色にこだわりがあったのか・・・?
茹でて整形してからもう一度火で焙るピリリードの製法より、水につけた後焙りながら形を変形させる篳篥の製法の方が、ひと手間少なくて済む、ということもあるかしら?たまたま日本は他の地域と違って湿気が多いからそれが可能になったのかも。
発見と驚きあり、いろいろ考えさせられるソウル旅行でした。
ピリのリードの製作方法については映像をお見せすることができませんが、アルメニアのドゥドゥクのリード製作については、下記サイトのyou tube で見ることが出来ます。とても興味深いですので、是非ご覧になってみてください。
http://albertsduduk.com/duduks-reed-making-5/