朝の鵜殿、そしてヨシ原保全のこと

日曜の朝、鵜殿を歩いてきました。堤防からはヨシやオギの青々とした葉がもこもこ盛り上がって見えます。帽子・長靴・日焼け止めOK。いざ、ヨシ原の中へ。

入った途端、思わず笑顔になってしまいました。すご~い! 鳥たちのおしゃべりの賑やかなこと! 至るところから、ホーホケキョ♪ ヒーーヒロヒロ♪ チチチ チチチ♪ キョロキョロ♪ うまく書けないけれど、兎に角しゃべり続ける鳥たち。すぐ横の茂みから聞こえます。牛カエルの声や、飛んでいるカモの声も。水路横には亀がのそのそ歩いているし。蝶も飛んでます。朝の空気を謳歌する生き物たちの気配をいたる所から感じます。
 
そしてヨシ。大きいのは3m50cmを越える高さに育っています。小道を歩くと両脇の高いヨシ群しか見えないので、ちょっとジャングルを歩いている気分。まだ6月なのに、もう蘆舌に使えそうな太さに育っているヨシが何本も目に入ってくるとは、さすが鵜殿ですね。頼もしい元気な若者の風情です。風が吹くとサヤサヤと葉が擦れる音にも聴きほれてしまいます。

一方でヨシを倒すカナムグラも元気一杯の様子。ツルをくるくるヨシに巻き付けていく様子は、蛇が巻き付いているみたいです。カナムグラにヨシが力負けし、倒れてしまっている様子に哀れを感じます。
 
やはり水路脇のヨシは育ちが良くて見ていても気持ちがいいですね。少し離れると背も低くなるし、雑草も増えています。ヨシがすくすく育つ場所、オギばかりの場所、雑草と共存する場所、カナムグラの天下となっている場所。きっと日当たりや土壌の性質、水を含む量などで優勢になるものが違うのでしょうね。どの植物も一生懸命、場所取り競争をしているんだなあ、と思います。
 
こんなに素晴らしい自然と沢山の生き物たち。そして広い空が都会に残されているなんて稀有なことです。
 
でも、ここには数年後に巨大な橋脚を立てて、高速道路を通す計画があります。その工事のためには、じめじめした土を踏み固めて、大きな工事用車両の通れる幅広の工事用道路が作られ、ヨシ原が沢山の工事用資材の置き場になったりするのです。
 
自然を壊してでも必要な道路は作らなければいけないということで、着工が決定されたのでしょう。地元の人間でない私が、口を出すことではないのではないかというためらいはあります。
ただ、この地に生えるヨシは、私が吹いている篳篥の蘆舌の材料として昔からずーっと使ってきた歴史があり、実際、鵜殿のヨシだからこそ素晴らしい音色を出す蘆舌を作れるのです。それが道路のせいで質が悪くなった、量も十分でなくなったということになってしまっては、次の世代に音色を伝えることが出来なくなります。
 
他の地のヨシも試したけれど、やっぱり鵜殿のものとは性質が違うね、と、多くの篳篥吹きが言っています。また供給量を考えても鵜殿のヨシに代わる場所はない。全国のヨシ原がどんどん消滅しつつある中で、良質のヨシをずっと供給してきた鵜殿のヨシを守れなくて、他所のヨシ原を守るということが可能とは思えません。
 
昨日午後は、NEXCO西日本による「新名神高速道路 鵜殿ヨシ原の環境保全に関する検討会」を傍聴してきました。多大な人手と費用をかけて篳篥用のヨシの育つ環境条件(地形や地質・土壌・地下水位など)の調査が進みつつあります。多くの先生方の研究で、良質ヨシの育つ環境がわかるのは興味深いことですし、篳篥吹きとしてはたいへんありがたいことと思います。
でも、その結果がどう生かせるのか。私にはまだ見えていません。
道路と良質ヨシは共存できる、そのために調査している、ということですが、本当に共存できるのか、どうやって共存させようとしているのか。調査研究を進めることが目的ではないのですから、それを生かして何ができうるか、何をするつもりなのかに注目したいと思います。調査研究の結果、道路はここには作らないことにする、という選択肢を考えないままでも、本当に良質なヨシが生き延びうるのかどうか…。
 
あの多様な生き物たちのなかで、外径11mmの篳篥蘆舌に使えるヨシだけに価値を認めて検討するというのが、人間の勝手な都合であること自覚しつつ、篳篥用のヨシを守ることが川沿いに奇跡的に残されてきたヨシ原の自然の営みを守ることとにも繋がることを願っています。
鵜殿ヨシ原保全を求める署名活動は、7月31日を第二次集約日としています。
■「SAVE THE 鵜殿ヨシ原」ウェブサイト http://www.save-udono.com から署名用紙・パンフレットがダウンロードできます。次世代に雅楽の音色をつなげるために 鵜殿ヨシ原保全を求める署名にご協力ください。