アルメニアの篳篥・・・ドゥドゥクのこと
アルメニアの篳篥=ドゥドゥク。十数年前にジヴァン・ガスパリアンCDで、深くしみじみとした音色に魅了されてから、いつか自分で吹いてみたいと思っていた楽器。3月、ニューヨーク滞在中に、とうとう入手しました!
今回作品を演奏させていただいたニューヨーク在住の作曲家のアレクサさんはアルメニア人。私がドゥドゥクを大好きだと知って、楽器商の方を紹介してくださったのです。ヨーヨーマのシルクロードオーケストラにドゥドゥク奏者も参加していた関係で、その楽器商の方が10本くらいドゥドゥクを購入し、最後の一本が私の所に来てくれたというわけです。
ニューヨークでドゥドゥクを教えてくれる人はいないの?と聞いてみましたが、いないようです。ロサンジェルスならアルメニア人が多いので、ドゥドゥクを吹く人もいるけどね、とのことでした。
■ 私の買った楽器は35cmくらいでリードは11cm。篳篥は管が18cmで蘆舌(リード)が6cmなので、どちらもリードは管長の1/3の大きさ。ドゥドゥクのほうがずーっと大きいけれど、形は本当によく似ています。
■ リード(蘆舌)部分については、葦の片端をつぶして平らにし、口の空き具合を調整する責(扁平な輪っか)をはめる。使わないときは平らな帽子をかぶせておく、という構造が全く同じ。
■ 材質のうち、リード(吹き口)はどちらも葦=ケーンcaneですが、本体は竹でできている篳篥とちがって、ドゥドゥクは杏(あんず)の木でできています。
杏はアプリコットですが、ラテン語名はarmeniaca。杏といえばアルメニアを思い出すくらい結びつきのある木なのでしょうね。その杏から音を出すドゥドゥクを、アルメニアを代表する楽器として大事にするのも不思議はありません。
ちなみに、楽器をお手入れする油も、クルミとあんずからとった油なんだそうです。
■ リード下端の管に差し込む部分には糸が巻いてあります。ぐらぐらせず安定し、息が漏れません。
私がトルコで入手したメイは、差し込みが浅く何も巻いていなくて安定が今一つでした。
篳篥なら和紙を使うところです。
■ 帽子(先端にかぶせるキャップ)と責(輪っか)が糸で結ばれて、離れないようになっているのはいいアイデアです。帽子をなくさずにすみます。
■ 責めがしっかり止まるように、篳篥では段差をつけて舌を削ったりしますが、ドゥドゥクには止めはありません。薄く削った先端から根元までなだらかに厚みが変わっています。
そういえば、トルコのメイも、中国の管子も、韓国のピリも段差をつけないようですから、篳篥も昔は段差をつけて責め止めにしなかったのかもしれません。
■ 口にリードをくわえる深さですが、篳篥はほとんど責に当たるまでくわえ込むのに対し、ドゥドゥクではあまり深くくわえず、リードの先端が唇の上にある感じです。(メイを習ったときには、3mmしかくわえちゃダメなどと直されました。)
ヴィブラートをつけて吹くためには、深くくわえ込まないほうがよいのでしょう。
■ リードの平らになっている両側に薄い皮のようなものが張られていて、割れを防止しているのには感心します。丸いものを無理に平らにつぶしているので、脇が割れるのはある程度仕方ないのですが、息漏れがしては困る。篳篥でも真似をしたいような工夫です。
■ 篳篥は吹く前に温かいお茶にリードを浸すのですが… ドゥドゥクは口にくわえたり息を入れたりしながら気長に20分30分かけて吹き口を開けるのだそうです。水につけると、リードの寿命が短くなるから良くない!ときいてびっくり。
■ 指穴の数は・・・今回入手した楽器は、管の前面に穴が9つ!! 裏面に1つです。左手小指を動員しても、全部ふさぐのは無理。一番下の穴はふさがないのでしょう。左手小指も使用したポジションならば、音域がそれだけ広がります。左手小指を使用しない(篳篥と同じ)ポジションと2種類を使い分けているようです。
一番下の穴を裏側に開けた楽器では、指だけでは足りなくて、膝やお腹を下の穴にあてて塞いで低い音を出す、などという高等テクニックもあるみたいです。
篳篥同様、倍音は使わないので、狭い音域を広げる工夫がすごいですね!
■ 近頃、海外で篳篥を吹くと、それってドゥドゥクの仲間?と言われることがあります。どこでもマイナーな篳篥族のなかで、唯一ドゥドゥクだけはアルメニアの国民的楽器となっているのは興味深いことです。それだけに楽器にいろんな工夫が加えられているように思います。
欧米では近年バンドやヴァイオリンなどとの共演も盛んな様子。
♪ 心に沁みる柔らかく深い音色を、いつか私も出せるようになりたいなあ。