もうひとつのヨシ原……北上川

2月下旬の週末、またヨシ刈りしてきました!
……あれ?その日は鵜殿のヨシ焼きの日では?
そう、今回は鵜殿ではありません。十数年前に日本の音風景百選に選ばれた時からずっと訪れてみたかった、北上川のヨシ原です。河口から十数キロにわたって広がるヨシ原でしたが、震災・津波・地盤沈下でヨシ原のおよそ7割が水没。全国の民家や文化財の茅葺屋根を葺いてきた広大なヨシ原ですが、人手も集落ごと流出してしまってその保全が深刻な課題となっている所です。
でも、その美しさといったら……! 山々に囲まれた大河に一面のヨシ。広い空を飛ぶ白鳥や野鳥たち。ヨシだけ生えてるヨシ原です。当たり前のようですが、鵜殿のヨシ原では、ヨシよりオギやセイタカヨシその他の草の方が多かった。
固い地面に生えたヨシを、鎌で刈り取るのですが、つい力を入れてしまうと根から引っこ抜いてしまう。その根が濡れています。地下茎はもう水に浸かっているのです。
ここは海水と真水の混じる汽水域だから、ヨシは硬くて丈夫。ハリがあります。でも私が刈り取ったあたりのヨシは、一番太くても外径8mm。
で、もちろん尋ねました。「外径11mm位のヨシはありませんか?」
答えは、「今はないね。」「……」
太いのが全くないわけではないようです。「マツタケみたいなもの」だから秘密の場所に採りに行く。でも、そうして大事に保管してあったヨシも、2年前に倉庫ごと、みーんな流されてしまったのでした。
刈った束から1本だけ太いのを見つけたので、切ってみました。固くて良さそうに思いましたが、肉厚なだけに外皮から削っていくと、残る部分はけっこう柔らかくなってしまいそうです。でも音は出るんじゃないかな。しばらく乾燥させたら削って試してみましょう。
北上川でとれたヨシを蘆舌にして篳篥を吹くのも、私は素敵なことだと思うのです。
でもそのヨシは鵜殿で取れたヨシと同じ性質のヨシではありません。そして、材質を問わなかったとしても、条件にあうだけの太さを満たすものを探すことは、大抵なことではないようでした。
人の手をいれなければ荒れ果ててしまうのは、鵜殿のヨシ原も北上川のヨシ原も同じこと。全国のヨシ原が河川改修や護岸工事で失われて久しいこのごろ、これらの美しい自然を残したい、と切に願うのでした。

essay, topicヨシ, 北上, 蘆舌