武満徹と篳篥

img_20161001_105543立花隆著「武満徹・音楽創造の旅」には、武満のこんな語りが紹介されています。
「篳篥なんかでも、ほんとはあれは低い音がいい音がするんです。ところが実際には、なぜか低い音をぜんぜん使っていない。・・・しかし『秋庭歌』では低い音を使ってます。
そしたらいまの天皇が皇太子の頃、『秋庭歌』を聞きにこられて、話をしたいということでお会いしたら、『この作品では篳篥の非常に低い音が出てますね』といわれた。『おわかりになりましたか』といったら、『はい』といったので、さすがだなと思いました。」
たしかに「秋庭歌」(第四曲)の冒頭は篳篥の最低音(F♯)をさらに塩梅で低く下げる動きから始まります。音域の下半分での滑らかな動きが多いので、それが秋の陰影ある色彩と情感を出しているように感じるのです。
それが一転して後半のカオス部分では高音を伸ばす音が多用されていて、色とりどりの落ち葉が沢山散っているかのような華やかさとなるのです。
.古典でも低い音をぜんぜん使わないわけはないのです。でも、低い音はすぐに1オクターブ上に塩梅で上げて、高音で延ばすので、どうも甲高くうるさいイメージにがあるのかもしれません。

そしてなにより、40年前に皇太子だった現天皇陛下がわざわざ篳篥の音について感想を述べられていたということに、感激!
一期一会。本日(2016.10.1)の国立劇場公演もどなたに聞かれても恥ずかしくないように、吹かねば!
そして、11月30日には、東京オペラシティコンサートホールの広い空間で「秋庭歌一具」を演奏する。一具の中に、篳篥のための楽章「塩梅(メリスマ)」を作曲されるほど、武満さんは篳篥の音色へなにか感じるものがあったに違いない。1994年に八ヶ岳高原音楽祭でお会いした時に、もっとお話すればよかった!篳篥の新しい世界を開いた「秋庭歌一具」を吹かせていただける喜びを感じつつ、この曲に挑戦していきたい。

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